「いちまーい、にまーい、さんまーい……」
一度聞いたら忘れられない、あまりにも有名なこのフレーズ。 『皿屋敷』は、主君が大切にしていた家宝の皿を割った(あるいは割ったという濡れ衣を着せられた)下女のお菊が、命を落とし、幽霊となって現れる悲劇の物語です。
舞台は、兵庫県・姫路城に伝わる『播州皿屋敷』や、江戸の武家屋敷を舞台とした『番町皿屋敷』など、日本各地に伝説として残っています。
井戸の中から現れた彼女が、足りない一枚を求めて皿を数え続ける姿は、理不尽な運命に翻弄された女性の深い悲しみと怨念を今に伝えています。
世界が注目した「浮世絵の幽霊美」
お菊さんの物語は、日本国内にとどまらず、遠くアフリカの地で発行された切手にもその姿を留めています。
シエラレオネ発行「日本美術 - 幽霊と悪魔」(2003年)アフリカ西部の国シエラレオネが、日本の伝統美としての「怪異」をテーマに発行した美しい切手シリーズです。
描かれた意匠:月岡芳年『皿屋敷 お菊の霊』 幕末から明治にかけて活躍し、「最後の浮世絵師」と称された天才・月岡芳年の傑作が選ばれました。
鮮烈なる「凄惨の美」 芳年が描くお菊は、単に恐ろしいだけでなく、どこか儚く、そして息を呑むほど妖艶で井戸から立ち上る煙のように消え入りそうな姿、そして悲哀に満ちた表情……。世界中のコレクターが、この小さな切手の中に宿る「日本の美意識」に魅了されました。
井戸の底に眠る、消えない未練
月明かりに照らされた井戸の縁で、今夜もお菊さんは皿を数えているのかもしれません。
切手に描かれた彼女の姿をじっと見つめていると、どこからか「九枚……」と、ため息のような声が聞こえてくる気がしませんか?
次回の「切手に描かれた怪物」もお楽しみに。


